近所に、白い野良猫がいます。自分ではもううまく餌を獲れないのか、誰かにご飯をもらっているようでした。
昔の私は猫に特別な興味はなく、正直、気にも留めていませんでした。でもある日、ふとした気まぐれで餌を差し出してみたんです。すると、その猫はためらいもなく近づいてきて、静かに食べ始めました。驚くほど素直で、それがなぜか胸にじんわりと沁みて……気づけば数回餌をあげていました。
ところがある日、餌やり禁止の看板が目に入りました。それ以来、猫には餌をあげなくなりました。知らなかったとはいえ、ルールを破っていたことに気づき、反省もしました。
それでも、夜に出会うことがあります。餌を持ったおばあさんと、白い猫。そして、おばあさんはビクっとして気まずそうにこちらを見てきます。けれど私は、心の中で「気持ちは分かりますよ、暗いので私には良く見えないですよ。」と声をかけるような気持ちで、黙って通り過ぎます。
注意する人も、こっそり餌をあげる人も、どちらにもそれぞれの正義があるのだと思います。
でも、こうしたすれ違いの原因を作ったのは、あの猫を捨ててしまった誰かでしょうけど。
私自身、病気を患ってからふと気づきました。
「あの猫と、今の自分。少し似ているのかもしれないな」
健康なときは、あの猫のことを「可哀想な存在」と思っていました。
でも、まさか自分自身が、そう思われる立場になるとは……
あの頃は、想像もしていませんでした。
だから今では、その白い猫を見かけるたびに
「お互い、少しでも長く生きていけたらいいね。」と思っています。
ただそれだけのことが今の私にはとても大切な願いです。
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